力を抜く身体目指し古武術稽古

脱力したら体は動かない、きちんと体を動かせた時力の存在は無くなる。そんな時力が抜けたといえよう。

ラグビーのフィジカルとは対照的な武術の神経力

 いよいよラグビーワールドカップが佳境に入ってきました。日本の善戦ににわかラグビーファンになった人は多いはず、私もその一人です。

特にスクラムの力強さに目が奪われました。

組み合った瞬間の衝撃力は、一万ニュートンを越える事もあるそうですが、一万ニュートンは、軽自動車が時速20〜30km壁に衝突した時の衝撃と同程度という新聞記事を読み、何回交通事故起こしとんねんとツッコミを入れながら、それでもプレーを行うラガーマンの身体能力(フィジカル)には驚きを隠せません。

まして専門のスクラムコーチを招請し、日本のスクラムは精密機器のように8人全員が頭や腕、足の置く位置を数センチ単位で調整し、膝の裏や足首の角度はそろえ、スパイクの突起を何本地面に刺すかという細かなところまで正確に意識して組んでいると書かれていました。

少しでも形が崩れれば密着度が下がり、全員の力を相手に伝えることが難しくなるのだそうです。

「形が崩れれば、力を相手に伝えることが難しくなる。」

これは、400年前から武術の世界では周知の事実として認知され、武術の稽古はもっぱら形に拘り構えを創ることに全力を注いできました。

武術の世界には、「形が技を助ける」という言葉があり、形や構えの重要性が理解され、そしてこの形は型稽古を通して代々養われてきたのです。

形や構えといわれる静止した状態は、静止した状態では創ることは不可能であり、静止した形や構えは、型動作の動きの中で培われ結果的に出来上がるものと理解しています。

そして、型動作はいくら頑張って動いても動作の基本となる形や構えが出来ていなければ砂上の楼閣となります。

「静」を創る為に「動」を養い、「動」を創る為に「静」を養う必要があるように思います。

「動」の結果となる技や術を養うためには、「静」の形や構えが出来ていなければなりません。

これら形や構えが精密であればあるほど技や術の精度が上がり、精度が上がれば上がるほど力を相手に伝える伝達能力も格段に上がります。

格段に上がった伝達情報は、ノンストレスで相手に伝わります。

ノンストレスすなわち何の抵抗も感じない情報は、情報としての情報を有していないことになります。

武術では、この情報を有しない情報が非常に重要な役割を果たします。

ヒトは、外部情報を基に身体を制御し、その上に自分の意思を乗せて動いています。

よく自分の身体は自分が制御し意思どおり動いていると思われている人が多いと思いますが、実際は自分の意思が関与する割合はごく僅かで、ほとんど身体を動かすための制御は意思とは関係のない自律神経が環境等を考慮し自動的に身体を動かしているとされています。

武術の「術」は、人の意思に対してアプローチするのではなく身体のほとんどを制御する自律神経系にアプローチすることで成立しているように思われます。

 身体を制御する自律神経に対して情報を意図的にコントロールするのです。

情報を意図的にコントロールするとなると、何らかの情報や刺激を加えることにより影響を及ぼす様なイメージがあるかもしれませんが、その逆で意図的に自律神経が行う姿勢制御システムが必要とする情報や刺激を極力カットすることで、入力系の混乱を起こさせることを目的とします。

自立神経は経験的に環境や状況に応じて身体を維持制御を行っていますが、年数と共に経験的刺激が強化され、「その刺激に対してはこの反応」とパターン化する傾向が強くなります。

パソコンのcookieのように使っている情報はより効率よく動作できるように。

環境に応じてパターン化された反応は、入力される情報はひとつではなくいろいろな情報がセットとなり入力されそれに対して反応を起こします。

たとえばパンチを受ける際、腕の振りの速度や方向、腕っぷしの太さなどいろいろな情報からどのようなパンチが飛んでくるか、過去の情報に照らし合わせそれぞれの情報をセットにし総合的に反応を行います。

ヒトは、経験的にパターン化した反応を行い効率的に身体を制御しています。

武術の「術」はこのパターンの情報や刺激の削除によりパターンを崩し、入力系の混乱を起こさせます。

置かれている環境の情報を省くことでパンチの腕の振りが、思ったより速く来たり、相手との間合いが取れなくなるなど、過去の経験則と照らし合わせると誤差が生じてしまうシュチエーションが出来上がる状況を作り上げます。

今までならこれぐらい距離をおけば安全であると思われる距離が、以外と近かったり、今までの経験よりその速度でパンチが飛んできたら避けられるのに避けきれない状況に陥ってしまう。そんな誤差が生じてしまう結果を作り上げます。

これらの結果を作り上げるためには、一般的な動きよりも動きのショートカットが必要になります。そのために無駄な動きをそぎ落とし、動きを単純化していきます。

その最たる動きは、一調子そして一動作で動きが完結することなのです。

 ラガーマンのフィジカルは大したものですが、鍛えていなければいずれ弱ってしまいます。しかし、武術の動きは、体力や筋力に頼った動きではなく神経活動の変換による特殊な動きを行い、体力や筋力ではない神経力を高めた動きと言えると思います。