手首の使い方は、武術にとって非常に重要だと言われていますが、なぜ重要なのか、どう使えば有効なのかが全くわかりませんでした。
しかし、ピアノの演奏会で横山氏の手首の動きを見て気づいたことが二つありました。
一つは、手首が動いていないこと。
表現力の乏しい者にとって、この様にしか書きようがないのですが、一流ピアニストが難易度の高い曲を弾くのに手首を動かさずに弾けるわけはありません。
手首が無駄に動いていないと書けばわかりやすいですが、それでは言いたいことが伝わりません。
指が鍵盤に近づく動きの手首は、その時の指の使い方で手首の動きが違ってきます。
指を鍵盤に近づける、指の屈曲運動を行う際指の屈筋を収縮させます。そのとき同時に指の伸筋が弛緩します。そのように屈筋と伸筋がバランスよく収縮と弛緩を行わないと
指は曲がりません。
日常動作の何気ない動きであれば少々乱れても差し支えはありませんが、一流のピアニストが難曲を弾く際は繊細なコントロールが要求されるはずです。
日常動作の指の屈曲レベルであれば、手首が動揺し、指が曲がれば手首が微妙に引き上がります。
その様な時の手首は、止まっている様でも微妙に揺らいでいます。
一般的な見慣れた身体の動きは、何処かしら動揺していても、それぐらい動いていないと認識されます。
しかし、横山氏の演奏の一部始終に揺らぎのないパートが現れます。
これは、見ていると非常に気持ち悪く見えてしまいます。
人の動作は常に揺らいでいるのに、揺らぎのない動きは普通ではないので違和感を感じます。
日本舞踊家の竹原はん氏の舞も揺らぎのない動きが含まれ、ある意味違和感のある動きとして見ていました。
この揺らぎのない動きこそ、最大限コントロールされた賜物だと気づかされたのです。
動かない、揺らがない様にするためには、身体を動かさない、使わない様にするのではなく最大限に身体を作用させコントロールされた結果動きが協調され動いていない様に見えるのです。
じっとしているのではなく、目一杯動いた結果、微動だにしない動きが完成されるのです。
揺らぎのない手首の動きは、指を曲げる動作を行うと必ず揺らぐので指を曲げる事を諦めなければなりません。指を曲げなければ拮抗筋の弛緩のタイミングも問題なくなります。
指を屈曲させないで鍵盤を叩けばいいわけです。
それは、指をまっすぐにして叩くのではなく、指を落とせば良いのです。
指を曲げるために屈筋を使えば、伸筋に作用し手首が動揺するのであれば使わなければ良い事になります。
指の筋肉を使わず、指を動かす。そのためには、指の屈筋を使わず指を曲げる。
ただ、指を落とせば鍵盤を叩く事ができ、伸筋は初めから弛緩しているのでタイミングを合わすこともなく、手首も動揺しない。
手首が揺らぐことなく指を動かそうとすれば、たた指を落とせばいいわけである。
ポイントは、指のコントロールが必要なこと。
ただの指の脱力では話にならない。
ただ指を脱力させ鍵盤を叩くなど単純なことではなく、最大限のコントロールの末の指落としである。
日常動作であれば、指の動きを指の筋肉で行えば事足りるのであるが、プロはそういうわけにはいきません。
指の筋肉を使わず指を動かすと手首はブレず空間上静止状態を作ることができるのです。
では、どこで指を動かすのか。
それがわかればみんなプロになれます。