義理の母が大腿骨頸部骨折後約3ヶ月になろうとしていますが、リハビリ病院はいたせりつくせりで居心地が良いらしく退院したくないみたいです。
近頃はすぐに手術をしてすぐにリハビリを行う事がセオリーとなっていますが、一昔前なら骨がひっつくまで安静にしていたため、骨が引っ付いた頃には筋力が弱って寝たきりになるパターンが多かったようです。
義母は寝たきりは免れたものの、いたせりつくせりで依存心が強くなり日常生活に戻れるか心配です。
先日お見舞いに行った時に母がロッカーの物を取る姿を見て、なるほどこれで転けたのかと思えた事がありました。骨折時は自宅の洗面所で転倒し本人もどのように転倒したのか覚えがなかったのですが、洗面所左側の電気スイッチに手を伸ばした時に脚を出さず、上半身だけを左に伸ばしそのままバランスを崩し左側に倒れたと推測できました。
病室のベッドサイドのロッカーに手を伸ばした時、その立ち位置から手を伸ばすとバランスを崩すだろう位置だったのです。
思わず、「お母さんもう一歩脚を出してロッカーに近づいて下さい。」と言いました。
もう一歩ロッカーに近づけば、なんともない動作なのですが離れたその位置から手を伸ばした姿は不安定極まりない状態でした。
高齢者の転倒の原因に筋力不足とかバランスを失ったりとありますが、その前に脚が出ていない事が問題ではないでしょうか。脚を出さずに動作すれば、いくら筋力があってもバランスを意識していても体の保持力は低下します。
一般的に年齢を重ねるとともに体を動かさない様に動作する習慣が顕著になってきます。コタツの周りに必要なグッズを並べる様に。
(私もショッピングモールに車を止める時は、店舗入口に一台でも近い位置を狙ってしまいます)
年々脚を出さなくなり、脚を出さない努力をします。
脚を出さない動作の中には、もちろん歩数が少なくなる事は目に見えて理解できる事ですが、もう一つに目には見えないが脚の使い方として力を一段と入れて使う様になります。
以前、高齢の方が転倒すれば寝たきりは免れないと憂慮され、歩く時は脚に力を入れて転ばない様に努力されているとお話しされていました。
転倒しない様にするためには、脚に力を入れて踏ん張る事は倒れないための常套手段です。しかし、反面脚に力を入れ地面に対して踏ん張ると動きにくくなるデメリットも生まれます。
力を入れて踏ん張った立ち方は、静止時には安定した状態を保つ事はできますが、動きのある状態では踏ん張った力が動きの妨げとなる外力となりえます。
踏ん張り力が入りぎこちない動きの対極に子供や若い人が軽やかに動く姿は脚に力を入れて踏ん張ってはいません。
軽やかに動くためには踏ん張る力を入れていては動きに時間がかかってしまい、スムーズな動きができません。軽やかとはスムーズな動き、すなわち動きに時間をかけずに動ける事です。
踏ん張って力を入れている間動きが止まっている事になります。
その動きが止まっているにもかかわらず、気持ちが先に走ってしまうと気持ちと身体の動きが乖離してしまいます。
一般的にお年を取られても、気持ちはお若いままの方が多いはずです。
若い気持ちで年老いた身体を動かそうとした時の状況として、気持ちは動いていても身体はついていかない事はある年齢になれば経験する事でしょう。
ヒトは年々動作が緩慢になり脚が地に着いて踏ん張っている時間が長くなり、しまいには脚さえも出せなくなります。
この様な状態を武術では「居着く」と称し、日常動作で表すと上記の様に脚を動かしていない時間を示し、地面に接地している時間が長ければ長いほど居着いている事になり動きが制限されている事になります。
動きの止まった居着いた状態は、身体を動かす上で大変不利になり武術においては致命傷です。
致命傷を負わないためにも脚を軽やかに出す事が筋トレよりも先決で、そのためにも地面を如何に踏ん張らずにそして力を入れずに身体を支えるかが優先されます。
そんなことを考えていると脚を地面に置く事ができなくなり、まるで真夏の砂浜を素足で歩く様な感じになってしまいます。
それでも、身体の重みは一旦足裏に短時間でもしっかり掛かるので、その短時間居着いている事になってしまいます。
居着かぬように身体を捌くためには、物理的に時間を短縮するのではなく脚の踏み方自体を根本的に変えなければなりません。
そのためには物理的な時間ではなく力の作用を消す努力をする必要があります。
地面に対して作用させない。すなわち作用させなければ反作用も生じない。
居着いているとは、反作用を実感することであり、そしてこの反作用を消すことで一般的ではない武術的な動きを表現する事が出来るのです。
そんなことをしていると、転倒する前に身体が倒れている状態になれる様な気がします。いずれジジイになって脚の運びがおぼつかなくなり義母の様なシュチエーションになった時うまく反力を消して身体を支える事が出来るのか近い将来が楽しみです。